忘れられた文化:消えゆく言語の現状と背景
言語は、文化やアイデンティティを形作り、世代を超えて知識と価値観を伝える媒体としての役割を果たします。
しかし、現代の世界では多くの言語が急速に消滅の危機に瀕しており、これらの言語が消え去ることは、文化の多様性と貴重な遺産の喪失を意味します。
この記事では、消滅、または消失危機にある言語の例を紹介し、その言語自体の特徴や成り立ち、消滅の背景、そして現在の状況について考察します。
忘れられた文化:消えゆく言語の現状と背景
ハワイ語 (Hawai)
ハワイ語は、太平洋にあるハワイ諸島で話されている言語です。
この言語は、ハワイの先住民の文化や歴史に深く根ざしていました。
しかし、ハワイ語もまた失われつつある言語の一つです。
ハワイ語が消滅の危機にさらされた背景には、複数の要因が影響しています。
19世紀から20世紀初頭にかけて、ハワイ王国がアメリカ合衆国に併合され、アメリカ文化や英語の影響が拡大しました。
これにより、ハワイ語話者は急激に減少し、言語が危機に瀕しました。
先住民に近いハワイ人は第二言語としての学習があり、またハワイ語の復興を目指してのカメハメハ・スクール(校内のすべてでハワイ語を使用)も開校されています。
ただ、学習の目標とする母語話者の少なさや英語の音や語順などの影響が大きいようです。
さらに、復興するハワイ語として、19世紀以前の古来のハワイ語の復興を目指すグループと、英語やその他の言語との長い期間の接触によって作られたハワイ語を「ハワイ語」として認識するグループとの不一致も見られます。
ロマ語 (Romani)
ロマ語は、ロマ(ジプシー)コミュニティによって話されている言語で、多くのバリエーションが存在します。
ロマ文化と密接に結びついており、言語は口承文学や音楽の伝承に利用されています。
現状としては、ロマコミュニティは社会的な排除や差別に直面し、言語の継承が難しくなっています。
元々を各地を渡り歩き、コミュニティ内での共通語としての生活使用での継承があったものの、多くのロマが定住するようになった昨今、周囲の言語を会話語として話すようになっています。
継承のプロセスとしては、ロマコミュニティ内での言語教育プログラムや、ロマ語の文学と芸術の奨励が行われています。
また、多数の方言のあるロマ語を標準化した標準ロマ語の制定に動くグループもあります。
ただし、統括をする中央政権などがなく、各グループの足並みもそろわず、標準化よりもロマ文化と言語の継承を表記として行う方向にあります。
アイルランド語 (Irish)
アイルランド語は、アイルランド共和国と北アイルランドで話されているゲール系の言語です。
アイルランド人固有の言語であり、アイルランド人口の大部分が話者でした。
しかし、イギリスの植民地となった時代に英語が支配的な言語となり、アイルランド語話者数が減少しています。
現状は、既に英語が優勢言語となっており、西部の一部地域でのみ口語的優勢言語とされています。
アイルランド政府はアイルランド語を奨励し、アイルランド語を義務教育の教科としたり、公務員試験の必須科目とするなど、復興や継承の為の施策が実施していますが、その影響は芳しくありません。
一部の地域を除くと学習期間の終了とともに使用されることは極端に減り、話者を増やすことにはつながっていません。
アイヌ語 (Ainu)
アイヌ語は、日本の北海道に住むアイヌ民族によって話されていた言語です。
親とする言語や近縁とされる言語がなく、「孤立した言語」とされますが、下位となる方言や地域言語が多数存在する言語です。
アイヌ文化の信仰や生活と緊密に結びついていました。
江戸時代後期から、北海道への入植が多くなり、それに伴ってアイヌの少数化と和風化が試みられてきました。
近代化と日本の一元的な言語政策により、アイヌ語は教育機関や公共の場で抑圧されました。話者数が急減しています。
近代に入り、1980年頃からアイヌの文化を保護継承する動きが発生し、言語教室や研究、復興が進んでいます。
ただし、ネイティブとしての話者は数えるほどとなり、千島アイヌ語、樺太アイヌ語の方言は消滅、北海道アイヌ語も消滅に近い言語とされています。
結びに
これらの言語の消失は、その文化やアイデンティティにとって大きな損失です。
世界的に見ても、文化や知恵、情報や伝統の損失は計り知れないものがあります。
世界のグローバル化により、今後も消失を迎える言語や文化が増加する事が考えられます。
その消失の帰路にある我々は、これらの貴重な言語と文化を尊重し、保護する役割を果たすべき時代を生きているのかもしれません。
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